【珠玉のコース料理×ペアリング<第6弾>】二十四節気・七十二候。里山十帖で移り変わる里山の旬を感じ取る。/南魚沼市


2022年09月28日 3405ビュー
こんにちは。 ライター&カメラマンのリョウヘイです。

珠玉のコース料理×ペアリングを巡る旅。シリーズ第6弾は南魚沼市大沢山温泉にある、里山十帖さんです。

里山十帖は2014年にオープンした宿泊施設で、雑誌『自遊人』を発行する株式会社自遊人が運営しています。 旅館やレストランという枠組みではなく、この場所を新しいインタラクティブ・メディアと位置付けている点が特徴で、「真に豊かな暮らし」を提案・発信することを目的としているそうです。

「里山十帖」という名前は、「さとやまから始まる10の物語」が由来で、オーガニック魚沼産コシヒカリを育てる農作業体験「農」、美術大学との産学協同でリノベーションに取り組む「芸」、料理人とのコラボレーションで地産地消の郷土食文化に新たな彩りを加える「食」などのほか、衣・住・遊・環・癒・健・集の全10テーマで物語が構成されています。 (「さとやまから始まる10の物語」について詳しくは、公式WEBサイトでご覧ください。)

ここでは、「HOTEL 自遊人」、レストラン 「Organic&Creation早苗饗」、ライフスタイルショップ「THEMA」を併設するほか、周囲の自然を活用して規模を問わずあらゆる形の企画を展開しているのだそうです。

その土地のおいしいものを食べ、温泉や客室で癒やされる…という、一般的な旅館とは異なるコンセプトを持つ里山十帖。 どんなところなのか行ってみましょう!

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築150年の古民家をリノベーションした重厚な建築

里山の中にある里山十帖。駐車場に車を止めて歩いて行くと、立派な古民家が現れました。
こちらがレセプション棟の建物です。
堂々たる入口。重厚な柱や梁が組まれた建物は、長くこの地の豪雪に耐えてきたのでしょう。
建物前の池では鯉が泳いでおり、その上に設けられたテラスでくつろいだひと時を過ごせそうです。
重厚な扉が開くと、そこには総欅造りの贅沢な空間が広がっていました。
ロビーの中央に飾られている木のオブジェは、彫刻家・大平龍一さんの作品『ふくこづち(福小槌)』。大きな楠を使った小槌で、よく見ると下で大黒様が支えています。
アルネ・ヤコブセンのエッグチェアや、フィン・ユールのペリカンチェア、ル・コルビュジエのLC2などの名作家具が置かれており、その座り心地を体感できるのも里山十帖の魅力です。

階段の上にもフロアがあるようです。上がってみましょう。
こちらは「小屋組み」と名付けられた宿泊者専用ラウンジで、コーヒーやハーブティー、日本酒やウイスキーなどを無料で楽しむことができます。

次に、同じレセプション棟にあるダイニングへと行ってみましょう。
こちらがダイニング早苗饗-SANABURI-のメインダイニング。
高天井の開放的な空間で、国内外の著名なデザイナーがデザインしたダイニングチェアの座り心地を楽しみながら料理を味わえます。

このメインダイニングの他に、特別室やプライベートダイニングも配されているそうですよ。

“美味しいこと、美しいこと、健康で幸せに生きる料理であること”

里山十帖の厨房で腕を振るうのは、料理長の桑木野恵子さん。

桑木野さんは1980年生まれ。大学卒業後にエステサロンでの勤務を経て海外へ。オーストラリア、ドイツ、インド等を巡りヨガと各国のベジタリアン料理を学んだそうです。

帰国後は都内のヴィーガンレストランで勤務し、その後自遊人へ入社。2018年に里山十帖の料理長に就任し、現在に至っています。

「里山十帖には『料理十条』という10の考え方があり、私はその中でも10番目の『美味しいこと、美しいこと、健康で幸せに生きる料理であること』を常に頭の中で考えています。私にとっての料理とは、健康や美しさを実現するための手段や表現方法です。そんな料理をすることに日々喜びや楽しさを感じています」と桑木野さん。 また、新潟に来て季節が移り変わる速さに驚かされたといいます。 「例えば蓮の花が咲き始めたので、それをデザートに使おうと考えていると、1週間後にはもうないんですよ。四季の移ろいを東京に住んでいた頃よりも強く感じますし、日本の暦である七十二候を採り入れた料理を作っていきたいと考えています」と桑木野さん。
「里山十帖」の料理は一般的な“旅館料理”とは異なるそうです。
「ローカル・ガストロノミー」がコンセプトで、日本料理をベースにしていながらも、ハーブや香辛料を「だし」に、時には野菜や山菜を「調味料」に見立てた様々な料理を提供しているとのこと。
それでは、桑木野シェフがつくる季節のスペシャリテ「里山十帖」14,080円(税込)と、アルコール「日本酒&自然派ワインペアリング」11,550円(税込)を頂きたいと思います。

特別にノンアルコール「季節のソフトドリンクペアリング」11,550円(税込)もご準備を頂きました。

今回訪れたのは7月下旬。メニューには「小暑の頃 桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)」と、二十四節気・七十二候の名前が入っています。

移り変わる里山の旬が詰まったコース料理。さっそく始めましょう!

一品目 「ミツバチの一生」 × 笹祝酒造株式会社 祝吹 イエローラベル(多酸)

最初に運ばれてきたのがこちら。鮮やかな花で彩られた一皿で、中をのぞき込むと蜂蜜でつくられた泡が見られます。
里山十帖では今年から養蜂を始めており、一匹のミツバチが一生をかけて集めるという小さじ一杯分の蜂蜜(百花蜜)を使ってこの泡を作っているのだそう。上にはミツバチが集めた野花の花粉(ビーポーレン)がのっています。ほのかな甘さと花の香りを味わえる一品です。

その後に出して頂いたのが、火入れした蜂蜜を今日採れた山のキイチゴとブルーベリーをマリネし豆腐のペーストと合わせたもの。
こちらも優しい蜂蜜の風味があふれる爽やかな一品でした。

お酒は祝吹のイエローラベル(スパークリング)で、甘すぎずキリっとした味わい。とても飲みやすいです。 ノンアルコールはシロップ漬けにした山椒の実が入ったシャンパン。山椒の爽やかな香りが特徴です。

二品目 「夏野菜」 × フェルミエ ケルナー2021

二品目は、この日に採れたという新鮮な地元野菜がふんだんに使われた料理。生のものや、揚げたもの、茹でたものや焼いたものなど、さまざまな野菜が盛られています。

「野菜の力強い味を楽しんでほしい」と桑木野さん。

ズッキーニの花、ビショップスクラウン、トマト、ハーブの鮮やかな色合いが美しく、その下には佐渡産のアオリイカと、春菊を使ったナッツ入りのソースが隠れています。

お酒はフェルミエのケルナーという白ワイン。スッと入ってくるワインで、シンプルな野菜料理と調和します。ずっと飲んでいたくなるワインでした。

ノンアルコールは青梅のモヒート。ディルの花と野生のハッカを使った爽やかな一杯を、新潟県燕市の伝統工芸である鎚起銅器の酒器で味わえます。

三品目 「夏の山より」 × 河忠酒造株式会社 想天坊じゃんげ 瓶囲い 超辛口 純米酒 火入れ

三品目はお隣の十日町市松之山地区の山菜を使ったお椀もので、オクラの天ぷら、山ウドの穂先、ミョウガなどの風味を堪能できる滋味深い料理です。汁の中にはつきたての柔らかいヨモギ餅も入っていました。魚のだしと味噌の香りも豊かで、ほっとした気持ちになります。

お酒はじゃんげの純米酒。キリっとしたドライな味わいで、リピーターさんにも人気が高い夏酒なのだそう。実にすっきりしていて料理の邪魔をしません。 ノンアルコールはヨモギとクロモジを水出しにしたドリンクで、キュッと引き締めてくれます。

四品目 「鮎」 × 逸見酒造株式会社 真稜 至 純米吟醸

四品目は地元・魚野川で育った鮎をペーストにしたソースを “そばパスタ”とあえた料理。上には半身の鮎の炭火焼とチドメグサという山野草がのっています。

弾力のあるそばパスタと、パリパリとした鮎の異なる食感の違いが面白いです。
独創的でありながら土着感もあります。

お酒は至の純米吟醸。鮎の強い味と香りに負けない、ずっしりとしたお酒です。

ノンアルコールは地元のリンゴジュースと“どぶ酢”、キュウリのシャーベット、マイクロキュウリを使ったドリンク。見た目も味もさっぱりとした夏らしい飲み物でした。

五品目 「海のミネラル 山のミネラル」 × 青木酒造株式会社 鶴齢 越淡麗

五品目は佐渡産の黒鮑、長岡の梨茄子、万願寺とうがらしを使った料理。梨茄子は翡翠煮で、万願寺とうがらしは炭火でさっと焼いたもの。黒鮑のうまみが柔らかい茄子と融合し、すりたてのショウガが爽やかなアクセントとして利いています。

お酒は鶴齢 越淡麗。日光にあたらないように新聞紙に包まれた状態で酒屋さんから届くのだそうです。淡麗辛口タイプとは一線を画す、甘みのあるお酒でした。

ノンアルコールは山のハーブのお茶。乾燥させた桑の葉などの野草を煎って、それを煮出したものです。

六品目 「海と大地」 × 峰乃白梅酒造株式会社 菱湖 純米ドライ

六品目は佐渡産のハタ。4日間寝かせたものを炭火で焼き上げています。付け合わせは新タマネギと津南地域の在来大豆“さといらず”、黒豆、乳酸発酵された豚肉、大豆ミルクをハーブと一緒に炊いたもの。

ハタに振りかけられた村上市のミネラル工房の塩のうまみ、程よい脂のうまみ、香ばしい皮目…。シンプルな調理法で素材一つ一つの美味しさが迫ってきます。

お酒は菱湖 純米ドライ。ドライでありながらもフルーティーな香りもあり、白身魚によく合います。

ノンアルコールは村上市産の水出し緑茶にトマトウォーターを加え白ワインに見立てたもの。うまみが強いハタにトマトを合わせています。

七品目 「妙高の短角牛」 × カーブドッチ Bijou カベルネ・ソーヴィニヨン2020

七品目は妙高で放牧されて育った短角牛の炭火焼き。一頭買いで購入しており、部位はその時によって変わるのだそう。トウモロコシやタマネギ、大根、トマトなどの焼野菜に、コンソメと鮪節でとったジュレを合わせています。

上に振りかけられている緑色の粒はディルの種になる前のもので、独特のピリッとした香りがアクセント。柔らかい短角牛のお肉と共に、野菜の美味しさも存分に堪能できる一品でした。

お酒はカーブドッチのカベルネ・ソーヴィニヨン。しなやかな果実味と、柔らかいタンニンが交じり合った奥深い味わいです。

ノンアルコールは3年熟成させた山葡萄と村上紅茶を昆布茶で発酵させたものを合わせ赤ワインに寄せています。

八品目 「ごちそうごはん」

そして最後は、土鍋で炊いた白ごはんです。上の写真は強火で8分程炊いてから一度蓋を取り「天地返し」をしているところ。これによってムラのない美味しい白米に仕上がるのだそうです。

その後、弱火にして7分たった頃に再び蓋を外し、ごはんをよそって頂きました。下の写真です。
これは「煮えばな」という状態で、お米からごはんに変わる途中の周りに水分が残っているお米。とても瑞々しくて甘く、アルデンテのような食感です。これはとても新鮮な体験でした。
そして炊き上がりが下の写真。
蒸らし時間を経て、ふっくらとしたごはんに仕上がりました。
こちらのお米は、南魚沼の中でも特においしいお米がとれるという西山地域で無農薬栽培されたコシヒカリ。「南魚沼の米仙人」と呼ばれる鈴木清さんがつくっているのだそうです。

自家製の漬物、味噌汁と共にごはんを嚙みしめるひと時…。深く堪能させて頂きました。
コースではこの後にデザートが登場しますが、今回はここで終了させて頂きました。

地域性や文化、季節を感じ取る愉しさ

どの料理にも季節感が現れており、この土地の風土や食文化が取り入れられていました。

古来伝承の発酵・保存技術を生かすこと。
食材はできるだけ近くで手に入るものを使いフードマイレージを小さくすること。
山菜や伝統野菜、有機栽培の野菜など生命力の強い食材を使うこと、野菜は皮や根・茎まで、魚や肉は骨まで余すことなく使い切ること。
化学調味料を使わないこと…。

桑木野さんが手掛ける料理には、実にさまざまな想いが詰め込まれています。

「大切にしていることはたくさんありますが、やはり食べた時に幸せ感を得られるような滋味深い料理をつくることがとても重要だと思っています。ちなみに“美味しい”という感覚を得られるのは、単味ではなく、辛みがあったり苦みがあったり、複雑味があると私は考えています。そして、料理を気の置けない人と一緒にこの環境で味わいながら、幸せな気持ちを感じて頂きたいですね」と桑木野さん。

里山十帖で頂く料理。それは、食を通して実にさまざまなことを得られる体験です。

里山十帖には「体感するメディア」というコンセプトがありますが、今回コース料理を頂きながら、地域や文化、風土という伝わりにくいものが、“食”という形でダイナミックに伝えられたように感じました。

「里山十帖の料理は美味しかったですか?」と友人に聞かれても、少し返答に困りそうです。

なぜなら、「美味しい」という言葉が持つ概念だけでは説明できない価値、言葉では伝わりにくい価値が多く含まれていたからです。

「行ってみて、自分自身で感じてみてください」。そう返答することになるでしょう。

里山十帖での体験は、幾重にも折り重なった“複雑味”を五感で感じ取るという、奥ゆかしい大人の愉しみであるように思えました。
里山十帖

里山十帖

住所:南魚沼市大沢1209-6
電話:0570-001-810

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この記事を書いた人
リョウヘイ

ライター・カメラマン・編集者。1983年生まれ、新潟県五泉市育ち。
建築学生時代に旅に目覚め、20代の頃に25カ国を旅行。東京都内の出版社で海外旅行情報誌の編集に携わった後、新潟へUターン。
2018年に独立。日本の地方から世界の辺境まで、旅をしながら多様な文化と暮らしを探るのがライフワーク。

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